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東京地方裁判所 昭和28年(ワ)4204号 判決

原告 合同証券株式会社

被告 川瀬留吉

一、主  文

被告は原告に対して金四百九十八万七千円及びこれに対する昭和二十八年四月二十七日以降完済まで年六分の金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は金五十万円の担保を供して仮に執行することができる。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文第一、二項と同旨の判決並に仮執行の宣言を求め、請求原因として、原告は証券取引法により証券業者登録簿に登録された証券業者であるが、三村芳夫名義でなした注文に基づき、被告に対して昭和二十七年十二月八日日産火災海上保険株式会社新株二千株を一株五百七十三円代金合計五十七万三千円、同月九日安田火災海上保険株式会社新株二千株を一株七百八十四円合計七十八万四千円、同株式四千株を一株七百九十四円合計三百十七万六千円、同日同株式五千株を一株七百八十四円合計三百九十二万円以上代金合計八百四十五万三千円で売り渡した。

そして右代金の支払期については、日産火災は同年十月二十五日授権による新株式発行に関する取締役会の決議に基き、新株式の引受申込期日昭和二十八年一月六日から同月二十日まで払込期日同年二月一日以降と定め、安田火災は昭和二十七年十一月四日同様取締役会の決議により新株式の引受申込期日昭和二十八年一月二十日から同年二月二日まで、払込期日同年二月十二日と定めたので、原告が右新株式の申込証拠金領収証を取得しこれを被告に提供すると同時に代金の支払を受ける契約である。従つて前記売買契約は将来発行さるべき申込証拠金領収証を目的物とするものである。

そこで原告は被告に売り渡した当時右新株式引受権を他から買い受け、新株式引受申込の期日到来した当時新株式の申込証拠金領収証を取得し、昭和二十八年二月十二日以降同月二十七日まで再三被告に対してこれを提供してその引取と代金の支払を求めたが、これに応じないので更に原告は同年四月十一日附同月十二日到達の内容証明郵便によりその到達の後五日以内に代金を支払い右申込証拠金領収証を受取るべく、その支払を怠るときは前記売買契約を解除する旨の催告と条件附契約解除の意思表示をなしたが依然その支払をしないので、右売買契約は同月十七日の経過によつて解除された。

これにより被告は原告に生じた損害を賠償する義務あるところその額は、原告は同年四月二十日前記日産火災の新株式を時価である一株二百二十円合計二十二万円で売却し売買手数料四千円を差し引き二十一万六千円を売得し、安田火災の新株式を時価である一株三百三十円一万株につき三百二十万円で売却し売買手数料五万円を差し引き三百二十五円を売得し以上合計三百四十六万六千円となるので、前記の被告に対する売渡代金八百四十五万三千円との差額四百九十八万七千円は契約解除のため原告の被つた損害である。

原告は同年四月二十三日附同月二十四日到達の内容証明郵便で右損害金の支払をなすよう催告したが、その支払をしないので、右金員とこれに対する催告後である同月二十七日以降完済まで商法所定の年六分の遅延損害金の支払を求めると述べ、

なお被告は本件の外にも三村芳夫名義で原告の店で昭和二十七年十月九日日本機械貿易株式会社株式一万株の売買をなした外同年十二月六日まで数回に多額の売買をなしたもので三村芳夫名義の取引が被告のなしたものであることは原告の諒知しているところであると附陳し、被告主張の抗弁事実に対して、当時証券市場では授権に基づく取締役会の新株発行の決議がなされた事実が市場に明らかになると、直ちにその時から新株式申込証拠金領収証又は払込金領収証又は株券が出廻るときを受渡期日とする約定でその売買が盛になされていたもので改正商法第百九十条の規定に照しその売買は当事者間において無効とさるべき理由なくまた過当投機の危機に陥つたり株式市場を攪乱することなどあり得ない。

次に本件取引は非上場株式の売買に当り、場外のいわゆる店頭取引と称せられるものであるので、証券取引法の精神に反するわけはなく、仮に同法に違反するところありとしても売買契約自体の私法上の効力には何等影響を及ぼさない。

被告は前記権利株が受渡期において自己の予期に反し甚しく低落したため、口実を構えてその履行を拒否するに至つたもので、このような取引の無効を主張することは寧ろ被告において証券の攪乱を惹起させるものに外ならないと述べた。<立証省略>

被告訴訟代理人は請求棄却の判決を求め、答弁として、原告主張事実中原告が登録された証券業者であること、原告主張の日にその主張の会社の取締役会において授権に基きその主張通りの内容の新株発行の決議がなされたこと及びその主張の通りの内容証明郵便の送達されたことはなく、右は三村芳夫が被告の依頼に基づいて現株の取引の注文をなしたことがあるのを奇貨とし、勝手に被告の依頼があつたように装つて自己の名で取引したものであつて、もとより三村の取引であり被告の関知しないものであるこのことは被告が原告主張の取引について原告から証拠金の差し入れ要求を受けたこともなくまた差し入れたことのない事実に照し明らかである。

仮に原被告間に原告主張通りの売買契約が成立したものとしても右契約は次の理由で無効である。

(一)  原告主張の取引は新株式の申込期日がまだ到来しない間になされたものであるが、このような存在しない株式の売買は会員及び顧客を過当投機の危険に陥れ且つ株式市場を攪乱するものであるから民法第九十条にいわゆる公序良俗に反する無効のものである。

(二)  本件のような先物取引の性質を有する株式の売買契約は現物取引を建前とする証券取引法の精神に反するもので無効である。

(三)  元来取引所における取引については一定の例外を除きすべて取引所に上場してこれをなすことを要し、いわゆる仕切売買即ち自己の計算による売買をなすことを禁止しているのである。然るに本件取引はいわゆる場外取引として取引所に上場しないでなされたものであるが、このような取引は業務規程第十条に規定するどの種類の取引にも該当しない店頭取引に属するもので、東京証券取引所定款第百条第十三号により罰則の制裁に服すべき無効のものである。

なお本件取引は上場前の取引であり且つ安田火災海上の新株の取引は証券取引法第四条の規定に基づく大蔵大臣に対する届出の効力発生(その届出の日は昭和二十七年十二月十二日)前の取引であるから業務規程第十条第一号及び第六号により上場前の取引でありまた証券取引法第四条、第十五条に違反する取引であつて無効であると述べた。<立証省略>

三、理  由

原告が登録された証券業者であることは当事者間に争がない。

そして成立に争のない甲第二号証、証人三村芳夫の証言によつて正しく作成されたものと認むべき同第一号証の一乃至四、証人木村文夫の証言によつて正しく作成されたものと認むべき同第十八号証の一、二、同第十九号証の一乃至四の各記載と証人三村芳夫、木村文夫、小路三郎の各証言を総合すれば、被告は三村芳夫名義で将来発行さるべき後記会社の新株式の買注文をなしたので、これに基づき原告は被告に対して昭和二十七年十二月八日日産火災海上保険株式会社新株式千株を一株五百七十三円代金合計五十七万三千円、同月九日安田火災海上保険株式会社新株式千株を一株七百八十四円、合計七十八万四千円、同株式四千株を一株七百九十四円合計三百十七万六千円、同日同株式五千株を一株七百八十四円合計三百九十二万円以上代金合計八百四十五万三千円で売渡し、代金は将来右新株式の引受申込期日が到来し新株式の申込証拠金領収証が発行されたとき原告においてこれを取得し、これを被告に引渡と引換に支払をなす旨約束したこと並に原告は右売買当時原告は将来発行されるべき右銘柄数量の新株式申込証拠金領収証の引渡を受くべき権利を他から買い受け、その引受申込の期日到来した当時右領収証を取得し、昭和二十八年二月二十日頃から同月二十七日頃までの間被告に対してその引き取りと代金の支払を求めたことを認めることができる。

もつとも前記甲第二号証の作成について、被告は原告会社の社員木村文夫、小路三郎等の懇請により右新株式の買附委託を承認したのではないけれども、三村を救うためと原告の信用を傷つけないために被告においてその引き取りの責任を負わない条件のもとに右買附を承認することとして甲第二号証を作成したものである旨主張し、被告本人はこれに符合する趣旨の供述をするけれども前掲証人等の証言と対比し、右供述及びその他前記認定に反する被告本人の供述は措信し難く、他に右認定を左右すべき証拠はない。

そして日産火災海上保険株式会社では昭和二十七年十月二十五日授権による新株式発行に関する取締役会の決議に基づき新株式の引受申込期昭和二十八年一月六日以降同月二十日まで、払込期日同年二月一日以降と定め、安田火災海上保険株式会社では同様取締役会の決議により新株式の引受申込期昭和二十八年一月二十日から同年二月二日まで払込期日同年二月十二日と定めたことは当事者間に争のないところであるから、前記売買契約は将来引受申込期が到来し新株式の申込証拠金領収証(その証拠金は払込期日到来の際株金の払込に充当される)が発行されたときに契約の履行をなすことを約束したものであつて、将来発行さるべき右領収証を目的物とする売買契約というべきである。

よつて被告主張の(一)の抗弁を判断する。

未発行の新株式の申込証拠金領収証の売買が営利の目的のもとになされるものであることは推察するに難くないけれども、営利の目的は売買の動機というべきであるので、このような動機があるの一事をもつて右売買契約が過当の投機に陥り民法第九十条にいわゆる公序良俗に反するものとは考えられないしまた本件取引を目して株式市場を攪乱するものとは認められないから(一)の抗弁は理由がない。

次に(二)の抗弁について

証券取引法は上場株の空売買を禁止しているけれども、本件のような上場されていないいわゆる店頭で取引されるものについてその適用があるものということができないから(二)の抗弁も理由がない。

次に(三)の抗弁について

本件取引が仕切売買即ち自己の計算によつて売買をなしたものであるとの事実を認むべき証拠がないしまた上場株についてなされた売買ではないから店頭取引を目して無効のものと解すべき理由はない。

次に上場前の取引であるの故をもつて本件取引を無効とすべき理由なく、また大蔵大臣に対する届出の効力発生前の取引であつても証券取引法第十五条第一項は取締法規に属しこれを違反しても私法上の効力には影響がないと解すばかりでなく本件取引は証券業者が顧客の委託に基いてなした場合に当り同条の適用がないものというべきであるから右抗弁も採用できない。

然して原告が右引受申込期日到来した当時前記の領収証を取得し被告に対してその引取と代金の請求をしたことは前認定のとおりであるから、これにより被告は遅滞に陥つたものと認むべきであるが、更に原告が被告に対して内容証明郵便によりその主張のとおりの履行の催告と条件附契約解除の意思表示をなしたことは被告の認めるところであるので、その履行期である昭和二十八年四月十七日の経過によつて右売買契約は解除されたものといわなければならない。

従つて被告はこれによつて原告の被つた損害を賠償すべき義務があること勿論である。

よつてその額を検討するに

証人木村文夫の証言によつて正しく作成されたものと認むべき甲第二十一号証の一、二、同第二十二号証の記載と同証人の証言によれば、原告は同年四月二十日日産火災海上の新株式千株を当時の時価である一株二百二十円合計二十二万円で売却し売買手数料四千円を控除した残額二十一万六千円を取得し、安田火災海上の新株式一万株を時価である一株三百三十円合計三百三十万円で売却し売買手数料五万円を控除し三百二十五万円を取得しその合計三百四十六万六千円となるので、前記売買代金八百四十五万三千円から右売得円を控除した四百九十八万七千円は契約解除によつて原告の被つた損害というべきである。

そして原告が同年四月二十三日附同月二十四日到達の内容証明郵便で右金員の支払を請求したことは被告の認めるところであるので被告は右金員に対する催告後である同月二十七日以降完済まで商法所定の年六分の遅延損害金の支払義務あること勿論である。

よつて原告の請求を正当として認容し、民事訴訟法第八十九条第百九十六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 西川美数)

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